「万松青果株式会社」中路 和宏さんに聞く 〈2〉

究極の選択を求める「京の食」

料理をする時、何よりも「食材」が必要になります。京の料理人達が理想の料理を作る時もそうです。京野菜をはじめとする京都の食材事情について、市場に店を構える仲卸業者の方に話をお聞きしました。

京野菜はあっさり系、育つ土地や気候が違う野菜

京都の気候風土と肥沃な土壌、豊富な水を活かしてつくられている京野菜や地野菜。品質の良い旬のものから、大手ホテルやミシュランの星付きレストランなどのリクエストによる野菜まで。お客様に喜んでもらうために仕入れて売ることを信条とするから「野菜のこれからの未来はどうあるべきか、は悩みます」と、中路さんは語ります。

京野菜の壬生菜や水菜、鹿ケ谷かぼちゃにしても、あっさりしているのが特徴で、地野菜にしても、京都で生産されるものは個性的な味ではありません。でもそれこそが特徴で、野菜同士が味の邪魔をせず、野菜同士が奏でるハーモニーを楽しむのが醍醐味。それは、お互いを尊重する日本人の文化と同じだといえます。しかし最近「味の濃い野菜をください」「もっとインパクトのある味の野菜を」というオーダーが多くなりました。確かに、その野菜の良さを生かしてシンプルに調理して仕立てる場合は良いかもしれません。トマトなんてとっても甘い品種が増えましたから、そのままで十分おいしいものもたくさんあります。でも、その土地のものがどんなものなのかと考えた時、京都という風土で育つ野菜は……本来、味が濃いとはいえない。京都の和食文化が発展した歴史がその証拠です。

門外不出の京都らしい野菜・料理があってもいい

京都に居ながら、おいしいイタリアンやフレンチといった現地を意識した京の洋食が味わえるのは、とても幸せなことです。ただ、旅行をすると、やはり訪れた土地の食材や料理が味わいたくなります。観光都市・京都としては、和食でも洋食でも京の味を追求するのはいいこと。京都でしか食べられない野菜や料理はあったほうが良いように思います。どこでも食べられるようでは、京都のウリにもお店のウリにもならないですし。でも、これからの未来を考えて、新しい野菜も必要だとも言えますから進化も必要。最終的には無理をしない。それがいいのかもしれません。

お話しをおききした方

中路 和宏(なかじかずひろ)さん 「万松青果株式会社」 代表取締役会長 

京都市出身。23歳から5年間、東京・築地の青果卸売会社でセリ人として勤務後、家業の万松青果株式会社に入社。「経営者は従業員のために、従業員はお客様のために働く」をモットーに、弟・社長の昌則さんと改革に取組む。また50歳で、中小企業診断士の資格を取得。現在は、経営者とコンサルタントの2足のわらじで活躍中。